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西川 一誠
岩波書店 (2009-07) 定価:735円 / Amazon価格:735円 ISBN:9784004311959 私も富山から見ればさらに地方の志賀町に2年間住まわせて頂き、毎朝出会う人たちから「おはようございます」と声をかけられ、たまに富山に帰ると「おられなかったから玄関に野菜を置いといたよ。」と言われ、その暖かさにびっくりいたしました。 富山に戻ってからは、知った人とは挨拶をしますが、知らない人に挨拶をすることはまずありません。しかし、こちらから挨拶をするときちんと返してくれます。 さらに都会に参りますと、知らない人に挨拶をすると、挨拶を返されるどころか危害を受ける心配があり、子供たちは知らない人からの挨拶に返事もしません。 人口密度度が高いということは効率的で便利な面が多いのでしょうが、人的ネットワークが消滅し、大切なものを失ってしまう欠点も多いような気がします。 だから地方は今のままで良いのだ、とは決して思いません。知事が書いておられるように、高齢化がどんどん進み、10年後には機能しない地方が続出してくるでしょう。 志賀町でも、岩海苔やころ柿などの特産物でさえ、その生産に携っているのは高齢者ばかりであり、10年後を考えると心配になります。 まだ人が住んでおり、田畑、山林、地域産業がまがりなりにも回っている今、手を打たなければ、子供の代、孫の代には地方の環境はさらに悪化し、社会として機能しなくなってしまう懸念があります。 一方都会は子供を生み育て、老人が静かに過ごす場所としてはふさわしくありません。 その時期を地方で暮らすのが妥当だとすれば、青年期に都会で活躍することで、都会に発生する税収を地方にきちんと分配し、地方で子供を育て老人を見守る仕組みづくりが、日本全体のために必要不可欠のものであると思います。 道州制については、その仕組みを考えていく過程において結論付けていくべき課題かと思います。道州制ありきでもなく、現在の県を固執するのでもなく、都会と地方のあり方や税収の配分、などを考えていく上で、最適な解を求めていけばよいと思います。 個人的には、北陸がさらに連携して交通問題や産業育成に取り組んでいくべきと思いますし、交通網が発達した今、県単位の行政区画は小さいとは思いますが、まず議論すべきは入れ物の形ではなく、入れるものをどうすべきかから出発すべきと思います。 地方のすばらしさを継承していくためにも、地方の活力を何とかして維持していかなければ、と本を読んで感じさせて頂きました。
ジョージ ソロス
ダイヤモンド社 (2004-05) 定価:1,680円 / Amazon価格:1,680円 ISBN:9784478170557 さすがジョージ・ソロスは現在のバブル崩壊も予見している。 彼はこう言っている。 「問題は、国内でも国家間でも勝者が敗者のマイナスを埋め合わせないことにある。」・・・相互に助け合って皆で生きてゆく社会から、他人を蹴落としてでもひたすら高給を追い求める空しい社会になってきている。 「金融市場は放っておけば均衡には向かわず危機に陥りやすい。状況が一定以上に悪化するまでは各国政府は断固たる姿勢をとろうとはしないが、そのときには危機予防としては手遅れになっている。」・・・確かに協調介入はしているが既に遅し。 「バブルの初期段階では参加者は自分の愚かしさに気付かない。プロセスが進んだところでようやく期待と実際の展開との乖離が見えるようになる。それから決定的瞬間が訪れ、続いてトレンドが反転し、ときとして甚大な被害をもたらす。」 「バブルについて重要なことは、それが予め定められた運命ではなく、いつでも断ち切ることが出来、その時期が早ければ早いほど被害は少ない。」 「現実とその解釈の再帰的な相互作用が制御しきれなくなるのは批判的思考が停止させられたり、押さえ込まれたりしたときだけだ。9.11以降にまさにそれが起こっている。」 だから、ソロスは一刻も早く断ち切ろうとして、ブッシュの再選を阻むために本書を出版した。 しかし、結果はご承知のとおり、票数では負けたが、獲得議員数でかろうじてかってブッシュは再任された。 現在の状況はそのときから幕が開いたのかもしれない。
沈 才彬
三笠書房 (2007-02) 定価:560円 / Amazon価格:560円 ISBN:9784837976165 1944年中国江蘇省海門市生まれ、1981中国社会科学院大学院修士、同大学講師、1984東京大学および早稲田大学客員教授、2001年より現職 主な著書「超語句爆食経済」「中国経済読本」 中国とアメリカは表面的には「対立」でも水面下では「連携」 歴史的背景 ・ 1900年の義和団事件でアメリカは清王朝から戦争賠償金を受け取ったが、その金で精華学堂(今の精華大学)を設立し、中国の発展に寄与した。(日本は日清戦争の賠償金で中国を疲弊させた) ・ 第二次世界大戦でABCD包囲網を共に担う同盟関係だった。 ・ 朝鮮戦争でアメリカは中国に勝つことが出来ず、それをアメリカは率直に認めている。 ・ 以上の歴史的背景から、中国に反米感情はあまりなく、アメリカのことを漢字で「美国」と表現し、敬って「老美」と読んだりもする。(日本のことを小日本と蔑む事がある) 経済的背景 ・ アメリカ企業が中国で得た利益がアメリカに還流する構造(2005年で30億ドル) ・ 中国の外貨準備高は2006年10月時点で1兆ドルを突破し、世界一。その内7000億ドルが米国債と米金融資産。いわばアメリカ経済を人質にとっている。 ・ 以上から米中関係は「金融恐怖バランス」の上に成り立つ「ステークホルダー」。 中国と日本 似て非なる国 ・ 「社会主義市場経済」、「経済特区」、「一国二制度」など、中国人は本音と建前を使分け。 ・ トップダウン⇔ボトムアップ、即決⇔時間がかかる、最初に結論⇔最後、と意思決定システムが異なる。 ・ 個人主義⇔チームワーク、転職はキャリアアップ⇔会社への忠誠心、と働き方が違うため、中国人にとって働きにふさわしい報酬やポストが与えられないといった不満がある。 靖国神社問題 ・ 1972年の日中国交正常化の際、戦争責任は一部の軍国主義者にあり、日本国民も被害者であるとして、中国は戦争賠償金を放棄した。(日清戦争後の下関条約では中国から日本への賠償金額は3億5千万円(当時の中国、日本の歳入は1億円、8千万円)) ・ 侵略戦争の責任者であるA級戦犯が祀られている靖国神社を参拝することは、戦争賠償金を放棄したいきさつからも容認できない行為 ・ 中国は過去を忘れて未来志向を、日本は歴史を忘れない姿勢を持つことが必要 中国の台頭 ・ 世界の工場は完全に日本から中国にシフトし、2013年には日本のGDPを凌駕する。 ・ 格差(先進国との、国内富裕層と貧困層、農村部と都市部、内陸部と沿海部)がパワーを生む 不安材料 ・ 三つの不安「投資の過熱」「融資の過熱」「マネーサプライの過熱」 ・ 中央政府と地方政府の対立 ・ 共産党幹部の腐敗 農民から安い価格で土地を徴収し、使用権を外資系企業に売る中で、多額のリベートが横行 ・ エネルギーと資源の爆食による世界的なインフレ ・ 2030年に2億トン以上の穀物不足⇒世界的食糧危機が発生 ・ 格差問題 ・ 環境問題 感想 今年、中国はオリンピック、パラリンピックを大成功に実施した。金メダルの数も一番多く、周到な準備が実を結んだのだろう。2010年には上海万博で更なる発展を目指している。 しかし、何と言っても13億人の国にて、発展に伴う変化や傷みも大きい。 最近のエネルギー資源の高騰も中国が輸出国から輸入国になったことが大きく、次に懸念されているのが食料への影響だ。エネルギー自給率も 食料自給率も極端に低い日本が、その影響が一番大きく受ける。 遠い隣国などと悠長なことを言っていないで、中国との政治的なつながりや民間同士の経済的・文化的交流を強め、積極的に関わっていく必要がある。
重村 智計
三笠書房 (2007-10) 定価:560円 / Amazon価格:560円 ISBN:9784837976738 筆者は韓国人と朝鮮人だけが日本人にとって唯一感情が通じるというが、果たしてそうだろうか。 日本と民族的には一致して同質性のある一方で、歴史、社会、教育の仕組みの違いが異質性を大きくしている。 その違いを理解して付き合っていくことが、隣人として大切なことであり、そのために好著である。 韓国には政党が育たない。5年に一度大統領選挙が行われ、大統領候補を取り巻く新しい政党が作られる。大統領の権力は絶大なため、汚職が当たり前となり、大統領を辞めたとたんに本人や家族が逮捕される。 北朝鮮は世襲制としているが適切な後継者がいない。2000万人の小国なのに100万人もの若者を軍隊に送込んでいるために農業も工業も成り立たず、さらに国際的な金融制裁が効いて石油も買えず軍隊も機能しない。山の木を切って燃料とするものだから、大雨が降ると大水害が発生しますます疲弊する。 北朝鮮は朝鮮半島を統一するために韓国に工作員を送込んでいるが発見され射殺されるケースが増えたため、日本経由で侵入することとし、日本人パスポートを入手するため日本人を拉致した。 韓国には北朝鮮の工作員の活動が奏功したのか、左翼活動が盛んであり、金大中、ノムヒョンと続いた左翼政権が太陽政策として毎年1000億円単位で援助していた。 弊害も表面化し、例えば教育も平等主義を取ったため、金持ちの子弟は殆どアメリカの学校に逃避している。アメリカのハイスクールでの韓国学生乱射事件はその歪みの結果かもしれない。 今回の選挙で左から右に大きくふれ、イミョンバク大統領に代わったため、北朝鮮への援助は大きく削減されるだろう。 牛肉問題でかなり攻撃されているが、左翼勢力の最後の巻き返しと思われる。アメリカの北朝鮮金融制裁解除は、左翼に攻撃されているイミョンバク大統領を支えるためなのだろうか。 現状において中国・韓国は北朝鮮の崩壊を望んでいない。中国としては民主国家が隣に誕生すると、中国の体制が持たなくなる。韓国は北朝鮮の人民を食わせることはとても出来ない。 しかし、いずれ体制は変わっていく。 この国とどう付き合っていくかがわが国としても大きな課題である。
中村 政雄
中央公論新社 (2004-11) 定価:756円 / Amazon価格:756円 ISBN:9784121501578 1971年日本が濃縮ウラン製造を国産化しようとすると、アメリカの濃縮技術を提供すると言われ独自技術開発を中断したが、実際には提供されず、日本の開発が遅れた。 1974年にアメリカの濃縮ウラン供給力の限界から、原子力発電所で副生するプルトニウムを濃縮ウランの代用に使うことを義務付けたのに、1977年になると、核拡散防止の観点から高速増殖炉実験炉「常陽」と再処理工場実験施設の試運転を延期するよう要請してきた。 ワシントンには日本とドイツにプルトニウムを利用させないことを目的に情報活動している団体が二つあり、新聞の論説委員や反原発派に、ウラン燃料は十分ある、プルトニウム利用に経済性はなくワンスルーすべき、などの情報を提供している。 ヨーロッパでの反原発運動の背後にもアメリカの影が見え隠れしている。スーパーフェニックスの反対運動ではカリフォルニアからの反対派が退去して押し寄せた。西ドイツでも原発反対運動が激化したが、ブラジルへの原発輸出認可を政府が延期すると、何故か反対運動は鎮火した。 日本が真に独立国家たるためには、何としても再処理施設を安定運転させる必要がある。 原子力は社会的関心が高いことから政争の具とされる。 スウェーデンでは1970年に一院政となり、小勢力だった中央党が原発反対をシンボルに勢力を伸ばして与党となると、推進派だった社民党も原発反対を主張し選挙に勝った。国民投票で原発の段階的廃止が決まったが、現実として廃止は延期され、原子力継続支持派が81%と増えてきている。 オーストラリアでは与党社会党がチェルナーフェルド原発の運転開始認可をすると、半年後の選挙に不利となるため国民投票に責任を持ち込み、僅差で否決された。国民はその結果に驚き、反動で社会党は圧勝した。 イタリアでは3基の原発が稼動していたが、肉体美を売り物に選挙運動して名を馳せたチチョリーナ率いる急進党が国民投票を呼びかけ、推進派だった共産党も社会党も反対に政策を変えた。その結果、フランスからスイス経由で電力輸入することになり、2003年の猛暑で大停電が発生した。今年に入って原発を推進することを大統領は表明している。 国がどうあるべきかよりも政党にとって有利か否かが論点とされるのはいかがなものか。 原子力の事故は事件になりやすい 1974年に原子力船「むつ」が実験航海に出た時に、原子炉熱出力1.4%で微量の放射線が出て大ニュースになり、帰港できないどころか最終的には廃船になってしまった。 直接原因は上部の遮蔽不足だが、漏れた放射線量は腕時計の夜光塗料から出るくらいの微弱なものであり、人にも周辺海域にも全く問題がない。 実験航海だから、問題を出し尽くして改善するのが目的のはずだが、事故が事件になり、日本が原子力船を運航させる機会を永遠になくしてしまった。 1981年に敦賀原発で浦底湾の海藻からコバルト60などの放射性物質が検出された時にも、人への影響は全く考えられないレベルだったにもかかわらず、通産省が真夜中に「明朝6時に重大発表がある」と言ってマスコミを召集したため、事故が事件になり、風評被害まで発生した。 いずれも、リスクが全くないような事前説明と、影響レベルの伝え方に問題があったと思われる。 日頃からの情報公開とリスクを分かりやすく説明することが求められる。 報道のあり方 かつて日露戦争終結後のポーツマス講和会議において、サハリンと遼東半島が割譲され賠償金が得られなかった時に、マスコミは戦争継続して賠償金や領土の拡張を主張した。しかし、疲弊していた日本にとって戦争継続は出来る状況ではなく、その状況を淡々と伝え講和条約の妥当性を論じた国民新聞は非難され、潰れてしまった。 問題は国民が国の疲弊している実態を全く知らなかったことにあり、マスコミも真実を伝えることより読者の求める刺激を提供しようとしたことにある。 ドイツで風力や太陽光が推進されている事や19基ある原発の段階的廃止に合意したことが報道されても、実質的に廃止スケジュールは未定であることも、ドイツの電力会社が国外の原発新設に投資していること、フランスの原発からの輸入に頼っていることなどは全く報道されない。 やはり、日頃からの情報公開と情報提供が必要ですね
樋口 晴彦
祥伝社 (2006-06) 定価:777円 / Amazon価格:777円 ISBN:9784396110444 くそみそ理論 くそと味噌を混ぜるとくそ(全く使えない物)になる。 守らなくても問題のない基準が多いと、守らなければ大変なことになる基準もないがしろになる。 つまらない会議が多いと、大切な会議のレベルも下がる。 味噌にくそが混ざらないように、基準も会議も厳選していきたいものだ。 『紙』様信仰 組織が官僚化すると、規則や報告書などの文書類が増加し、本来の現場管理に傾注出来なくなる。 はんこの数が多いと、決定までに時間がかかるだけでなく、真剣に見る人がいなくなる。 大切なのは、誰が責任者かを明確にし、責任者が設備の発する声を現場で聞いて、責任を持ってやり遂げることだと思う。 紙とはんこの数を半分にし、現場に行く時間を今の倍に出来ないものだろうか。 高名の木登り 木登りの名人が弟子に高い梢の枝切をさせた時、高いところでは何も言わなかったのに、地上に降りる直前に「注意せよ」と声をかけた。 慣れて安心する頃が一番危ない。 新人は規則を呼んでから仕事に取り掛かるが、ベテランは規則を読まずに今までのやり方で実施することが多い。規則が変わっていた場合は大変な事になる。周りの人も新人には注意してもベテランには言い難い。ベテランや上司こそ気をつけて行動したいものだ。 小田原評定 北条家は打って出るか、篭城するかと延々と会議をしている内に、機を逃して滅びてしまった。 会議に出席する一人ひとりが、「これは俺の責任だ」と難題を背負ってやり抜く野武士集団であって欲しい。 グループシンク チャレンジャー号は、燃料漏れを起こしたパッキンが危ないとメーカーは分かっていながら、遅れがちな発射スケジュールを取り戻そうと言う雰囲気に呑まれて言い出せず、爆発してしまった。 トラブルが発生すると、たくさんの人が集まって会議を行う。情報を共有し英知を結集するために必要なのかもしれないが、実際に発言するのはごく一部に限られる。 さらに偉い人が出席し発言すると、反対意見も出にくく、流れて行く。 本当に有用な会議とするために、出席する一人一人の「俺はこれに責任を持つ」という意識が欠かせない。 ロシアンルーレット JCO事故は、効率化のために少しルールを緩め、前は問題なかったから次はもう少し緩め、というロシアンルーレットの連続だ。 ルールを少し緩めて実行する事が必要なら、専門家がきちんと判定してルール自体を変え、ルールを遵守する事だ。 後部座席のシートベルトも面倒くさいけれど、ルールになった限りは守っていこう。 責任なければ無責任 美浜事故は「情報を隠したりはしないが、登録漏れがあっても積極的に説明しない」というアウトソーシング特有の問題から起きた。 アウトソーシングすると関係者の間で情報や認識がなかなか共有されにくくなるが、そのギャップを埋めるのも道義的責任や法的責任を取るのも、発注元である電力会社だ。 「任せてあるから大丈夫」ではなく、どういった業務をどう実行するのか、どうチェックし、どう報告されるか、をしっかりと認識した上で発注していきたい。
中谷内 一也
日本放送出版協会 (2006-07) 定価:1,019円 / Amazon価格:1,019円 ISBN:9784140910634 一.信頼とは 電気事業の資産は何か? 発電~流通に至る膨大な設備は、総額数兆円にもなる貴重な資産です。 しかし、設備以上に大切な資産は、お客さまとの信頼関係。 管内すべての会社、家庭との取引があり、地域の皆さんのご理解を得て発電し、公道や人の敷地を使わせて頂いて、電気をお客さまにお届けしています。 この電気事業のためには、お客さまとの信頼関係がなければ、遂行していく事は不可能です。 当社にとって欠くことのできない最大の資産は、お客さまとの信頼関係なのです。 二.信頼は回復出来るのか 『信頼の非対称原理 信頼を築くのは難しく崩壊するのは簡単』 発電設備における不適切な対応で地に落ちてしまった信頼関係は、回復出来るのでしょうか。 あまり信用していない人に頼まれて、嫌々ながらお金を貸したとしましょう。 その人が約束を破ってお金を返さなかった時は、いくら「心を入れ替えてきちんとやります」と宣言しても、再びお金を貸す人はいないでしょう。 信用力のある保証人をつけるか、担保があれば、再び貸してくれるかも知れませんが、根本的に信頼が回復した訳ではありません。 たった一回の約束違反で信頼は失われてしまいますが、信頼を回復するためには、心を入れ替えて自主的にきちんと取組む、長い年月をかけた実績の積み重ねが必要なのです。 信頼とは人と人との歴史なのです。 三.信頼は何で決まるのか 『情報の非対称性 リスク情報の発信者と受信者との間には大きな情報の非対称性が存在する。』 マンションを買うときに、耐震計算書を審査して選ぶ人はまずいないでしょう。 売り手と買い手の間には、大きな情報ギャップがあるのですが、信頼があれば安全は大前提として値段交渉になります。 信頼とは「当該リスク問題を任せておいてもまずい事にはならないだろうと期待すること」です。 任せられるためには専門知識や経験・資格などが備わっていると見なされるかどうかの「能力についての認知」と、公正な立場から情報を発信しているかどうかという「動機付けについての認知」が必須です。 自分に都合のよい情報だけを発信したり、リスクが低く見えるように加工すると、動機が不純だと見なされ、信頼関係を築くことは出来なくなります。 有利不利に関わらず、公正な情報を出し続けることが、信頼関係を築く第一歩です。 四.信頼の本当の要因 『主要価値類似性 相手と同じ価値を共有していると感じると、その相手を信頼するようになる。』 能力ある人が公正な情報を出し続ける必要性を説明しましたが、そうすれば皆から信頼を得られるのでしょうか。 実は、いくら正しい情報でも、違う価値観を持っている人には通用しません。 「ガソリン税を25円下げるべきだ」と言われても、道路をもっと整備して欲しいと思っている人は賛成しません。 同様に、何かあったときだけ会社側からの一方的な説明をされても、聞いて頂き、納得頂ける事は出来ません。 同じ町に勤務し、住民として同じ価値観を持って、聞く人の立場に立って説明する事が、信頼を頂くための第一歩です。 地元の事を知り、地域の素晴らしい施設を利用し、文化や名産品を楽しみ、日頃から多くの人と交流して行く事が大切です。 人と人との信頼関係には同じ目線に立つ事が必要なのです。 五.ゼロリスクか否か 『リスクを過大視する心の仕組み 微少リスクとゼロリスクの間には心理的に非連続な差がある。』 宝くじを1枚買った人は、百枚買った人に比べて当たる確率は百分の一ですが、当選する事を期待し、抽選日を心待ちにします。非常に低い確率領域では、当たる確率ではなく、宝くじを買ったか買わなかったかが気持ちのうえで問題になるのです。 逆に、リスク情報は、被害を与える確率がいくら低くても、ゼロでなければ心配され、風評被害が起こったりします。 原子力発電所から事故で放射線が出たときに、放射線の線量がいくら低かろうと、大きな社会問題になります。 リスクは十分低い、ではなく、ゼロであることを期待されているのですが、物事が存在する限りリスクをゼロにすることはできません。そのことをどう分かりやすく正確に伝えていくかが大切な課題なのです。 六.見えない物は理解しにくい 『未知性因子 観察できないリスクは将来の大きな被害の予兆と評価されやすい。』 自動車事故は年間約100万回発生し、毎年1万人弱の方が亡くなっているにも拘らず、その便利さと比べてしょうがないかと受け入れられています。 それに比べて、中国製の冷凍餃子によって10人入院しただけで亡くなった人はいませんが、農薬混入経路が分からず、もしかすると拡大するかもしれないという不安により誰も食べようとはしません。 車を止めれば不便だけれど、冷凍餃子がなくても他の食べ物で不自由しないのも、結果に影響しているのでしょう。 要するに、リスクと効用が明確なものは、多少のリスクがあっても自分で取捨選択するのですが、不明確であり代替手段のあるものは、リスクが少なくても避けられます。 放射線や電磁波は目に見えなく認識しにくいものですから、小さなリスクも過大にとられがちです。 見えないものをどう分かりやすく説明していくかが、大きな課題です。 七.自分で判断できるように 『専門家がもたらすリスク不安 決定的な証拠がない限り研究者は結論を出さない。』 リスク影響が実際には無くても理解されにくいならば、専門家に客観的に評価いただき、説明してもらえば良いのではないかと思うのですが、逆に混乱することがあります。 専門家は決定的な証拠がない限り断定的な結論を出さないことが多く、「確率は非常に低いが・・の可能性は否定できない。」のように説明されると、かえって不安な気分にさせられます。 また、専門家ごとに研究している手法が違うため、結果についてもいろいろな見解が出され、意見の相違が解消されることはほとんどありません。 「明日の天気は晴れの可能性が高いのですが、雨の降る可能性も否定できません。」と言われたら傘を持っていけば良いのかどうか迷いますが、「雨の降る確率は10%以下です。」と言われると、自分で判断出来るようになります。 専門家からは出来るだけ定量的に説明頂き、情報の受け手が自分で判断出来る尺度を持つ仕組み作りが求められます。 八.マスメディアの宿命 『報道のスタイル マスメディアは最悪のリスク情報を強調する。』 あるリスクが安全か危険かを論じる専門家の意見が分かれているとき、メディアは両論を併記すればよいのですが、読者は「どうすれば良いのだ」と戸惑ってしまうでしょう。 「安全だ」と書いて、後でリスクが現実化すれば、メディアは批判されますが、「危険だ」と知らせて後で安全だと分かった場合は、「心配したけど何もなくてよかったね」で済むかもしれません。 そのため、メディアは最悪のリスク情報を強調し、悲観的な報道をしがちです。 ですから、その報道スタイルを理解したうえで、的確に情報を発信していく必要があります。 中谷内先生の提唱する「リスクのモノサシ」を作り、日頃から発信し認知していただくことにより、メディア情報の出され方と、情報を受け取る側の理解が的確なものとなっていくと期待されます。 事故やトラブル時の情報の出し方も重要ですが、日頃からの情報発信が一番大切なのです。 九.「あるか・ないか」ではなく程度 『リスクのモノサシ 予測される被害の大きさや緊急性に応じた対応を目指すべき』 リスクは100%から1%に下げることは可能でも、物が存在する限り発生確率をゼロにすることは出来ません。また、存在する何らかのメリットがあります。 お酒も飲みすぎると身体に毒ですが、少量ですと百薬の長ともてはやされるように、その兼ね合いをどうするかが、社会と個々人の選択です。 その尺度として中谷内先生は「リスクのモノサシ」を作ることを提唱しておられます。 「説得を目的として恣意的に作られたものでないこと。他のなじみのある災害との対比により理解しやすいこと。統計的に安定していること。」などの条件をもとに、第三者で作って頂き、情報の受け手が理解でき判断出来るようにします。 大切なのは、リスクが発生してからモノサシを作るのではなく、何も無いときに作っておき、それに基づいた情報を発信しておくことなのです。 十.あくまでも日頃が大切 『安全と安心 安全は現実の状態、安心は心の状態』 中谷内先生のご講演と「リスクのモノサシ」を参考にリスクと信頼について考えてみましたが、結論はやはり日頃が大事だということです。 日頃から信頼関係を築き、公平な「リスクのモノサシ」に基づいた情報を発信し続けていかないと、万が一リスクが発生したときに話も聞いて頂けず、理解にはとても至りません。 そして、一方的な話ではなく、相手の価値観を踏まえた双方向な対話をしていかなければいけません。 真摯に、謙虚に継続的に取組み続けて行かなければと決意するものです。 中谷内先生、ご指導ありがとうございました。 中谷内先生からコメントを頂きました。 電力事業に携わる皆さんは日本有数の技術者集団です。その誇りを胸に抱きながら、一方では、相対するお客様は技術者ではなく、感情を持った生活者だということを忘れないようにしましょう。まず、相手の話に耳を傾け、感情を理解することが、こちらの話を聞いていただくための第一歩なのです。 |
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