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臆病者のための株入門 (文春新書)
橘 玲 / 文藝春秋 (2006-04-01) / 810円650 users
購入:  2015年10月13日 810円 所有
読了:  2015年11月29日 星5つ
日本のネット証券は仁義なき手数料の引き下げ競争に突入し、もはやふつうに商売をしていては利益を出せなくなってしまった。1回あたりの儲けが少ない以上、薄利多売で稼ぐしかない。デイトレーダーの数が増えつづけることが、ビジネスの前提になっているのだ。 (P75)
効率的であるはずの市場で、特定のプレイヤーに明らかに有利な状況が生まれることをアノマリー(異常現象)という。勝ちつづけるトレーダーは、将来の株価を占う魔法を使っているのではなくて、統計的に有意な確率で勝てる機会を見つける術を知っているのである。経済学においてこうしたアノマリーを研究するのが行動ファイナンス理論で、2002年のノーベル経済学賞がその研究者に与えられたことから一躍有名になった。たとえば過去50年間のアメリカ市場のデータを調べると、年末から1月にかけて株価が上昇する顕著な傾向が見られる。ボーナス時期に年金ファンドに大量の資金が流れ込むことと、含み損のある株を節税のために売却した投資家が、年が明けてから買い戻すためだといわれている。1ヶ月の株価を見ると、月はじめと半ばの上昇率が高い。アメリカでは給料を2週間にいちど支払う会社が多く、年金ファンドへの積立資金が株価を押し上げている可能性がある。1週間のデータでは、1980年代までは明らかに、株価は週末に上昇し、月曜に大きく下落していた。それが90年代になると、理由はよくわからないものの、月曜日の株価上昇率がもっとも高くなった。1日の動きでは、午前の寄付きと、午後の終了間際に株価が上昇する確率が明らかに高い。このように行動ファイナンス理論では、人間の心理や制度上の理由(税制や給料日など)で株式市場は微妙に偏向していると考える。そうした機会を有効に利用できるならば、長期にわたって5割以上の勝率を維持することもけっして不可能ではない。伝説的なトレーダーたちは、マーケットに隠された歪みを日々のトレードのなかで発見していったのである。 (P79)
株式というのは、会社(船)の所有権をバラ売りしたものである。だからこの権利には、大きな特典がついている。会社がつぶれても、船が嵐で難破しても、どのような不測の事態が起きたとしても株主は出資額以上のお金を弁済する必要はないのだ。この「有限責任」の約束があるから、みんな安心して株を買える。なにしろ、損は限られているが利益は(理屈のうえでは)無限大、というおいしい話なのだ。こうして、アイデアと野心しかない無一文の若者でも、事業のための資金を集め、市場という大海原に乗り出していくことが可能になった。たとえ失敗しても、損は株主が背負ってくれる。株式市場とは、損を薄く広く分散させるためのシステムなのだ。 (P96)
株式会社というと「有限責任」が強調されるけど、いちばんのポイントは、損を限定することでみんなを冒険的にすることなのだ。こうして大航海時代の船乗りたちは、七つの海をまたにかけ、だれも見たことのない「新大陸」を目指した。この冒険を、経済学では「イノベーション」という。株式会社=資本主義は、ひとびとをイノベーションに駆り立てる仕組みだからこそ、わずか四百年のあいだに科学技術を急速に発展させ、人類の経済規模を爆発的に拡大させたのだ。 (P97)
民主主義は、資産の多寡にかかわらず人間は平等である、という建前で成立している。一方資本主義は、たくさん株を持っている奴がいちばんえらい、というルールで動いている。「市場と国家の対立」ということがよくいわれるけど、これはどっちが正しいという話ではない。資本主義とは、だれがもっとも効率的にお金を稼いだかを競うゲームである。だから、ここに別の規則の体系を持ち込むと話がこんがらがってしまう。「1株株主だって平等な人間なんだから、株主総会でビル・ゲイツと同じ権利を持つべきだ」とか。これでは文句ばかり多くて、マトモな経営は不可能だ。企業に「社会貢献」を求めるのも同じことだ。株式会社とは金儲けを唯一の目的とした組織で、その社会的責任はできるだけ多くの利益をあげ、決められた税金を納めること以外にない。そのほかのことは、ボランティア団体とかNGOとかがやればいいのである。それに対して民主主義は、ひとびとの生活すべてにかかわるルールを決めるから、人種や宗教、資産の有無で個人の価値を計ることは許されない。だから、ビル・ゲイツはホームレスよりもずっと大きなちからをもっているけど、人間として彼らは対等だし、それで正しいのである。 (P99)
株価はどのように決まるのだろうか? じつはこの問いには、ただひとつの正解がある。株式投資についてどのような理論を信奉しているひとも、この一点では意見が一致しているという究極のこたえだ。最初に、その正解を披露しよう。株式の価値は、その会社が将来にわたって生み出すすべての利益を現在価値に換算したものである。これは、ものすごい定義である。あの複雑きわまりない株の世界を、たった一行で説明してしまったのだから。とはいえ、いったいどこがすごいのだろうか。あなたがある会社の株を100%持っていたとすると、その会社の儲けは未来永劫あなたのものだ。だって、あなたの所有物なのだから。(1)株式とは企業の所有権である。(2)企業は、存続する限り利益を生み続ける(赤字の年もある)。(3)したがって、株式の価値は、将来にわたって企業が生み出す利益の総額のことである。ここまではとてもわかりやすい。とすると、ポイントは「現在価値」ということになる。いま目の前にある100万円と、遠い将来の100万円では価値がちがう。このことは、だれでも直感的に理解できるだろう。100年先に大金をもらう約束をしたとしても、その頃には死んでいるのだから、1億円だろうが10億円だろうがなんの価値もない。このように、お金の価値は未来になるほど小さくなっていく。このことから、株式の価値を計算するのに、現在の利益と将来の利益を単純に足し算しただけではうまくいかないことがわかる。正確な価値を知るためには、現在のお金は大きく、将来のお金は小さく、調整してやらなければならない。この比率を「割引率」という。もういちど株価の法則を見てほしい。それは、次のふたつの定義を合成したものだった。(1)株式の価値は、企業が将来にわたって生み出す利益の総額である。(2)その利益は、一定の割引率によって現在価値に換算されなくてはならない。ということは、株式の価値を知るために必要な情報は、たったふたつしかない。将来の利益と割引率である。これがわかると「ファイナンス論」の半分は理解できたことになる。 (P104)
「金融商品」というとなにやら高尚そうに聞こえるが、つきつめれば株と債権のふたつしかない。バランスシート(貸借対照表)は企業の財務内容を「資産」と資金調達(ファイナンス)」で図示するすぐれた方法である。資金調達とはようするに金集めのことなのだが、それはさらに「負債」と「資本」に分けられる。会社というのは、負債と資本で事業に必要な資金を調達し、それを資産という箱に投入して利益を吐き出すオモチャみたいなものだ。このとき負債でファイナンスするのが債権、資本を使うと株式になる。 (P106)
現在価値は、割引率が高いほど安くなり、割引率が低いほど高くなる。これがあらゆる金融商品の価値を決める最重要ポイントなので、ちゃんと頭に叩き込んでおいてほしい。 (P108)
バフェットの投資法を簡単にいうと、財務諸表などから企業の本質的な価値(理論価値)を推定し、現在の株価がその理論価値よりもはるかに安ければ大量に保有し、市場が自らの過ちに気づいて株価が上がるのを待つ、というものである。これは一般に長期投資と呼ばれるが、バフェットはそのなかでも個別株への集中投資を身上としており、保有銘柄は多いときでも10社を超えることはない。 (P115)
竹田(和平)の投資法も、バフェットと同じでひじょうにシンプルだ。会社四季報を見ながら、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの基本的な指標を参考に、会社の適正な価値に比べて割安に放置されている銘柄を探すだけという。もちろん証券マンのアドバイスを聞くこともなければ、アナリストのレポートも見ない。竹田がもっとも重視するのは、財務内容のなかでも株主資本比率と配当性向・配当利回りである。利益のなかから毎年株主にきちんと配当を支払い、そのうえで株主資本(資本金)を積み上げていく“まっとうな会社”以外は相手にしないのだ。そして、いったん気に入って保有した銘柄は、経営方針が変わらないかぎり永久に売らない。この究極の長期投資を彼は「旦那道」と呼んでいる。 (P117)
竹田和平のこの投資法は、知的かつ合理的なバフェットに比べるとかなりウェットである。竹田は、配当とは経営者から株主への感謝の表現であり、最低限の礼節すらわきまえない会社に投資価値はないと考えている(したがって配当を受け取ると、毎回、経営者に自筆の感謝状を送るのだという)。とはいえ、両者の投資法に共通するところは多い、ふたりとも企業の本質的な価値を見極め、割安な銘柄に投資し、長期保有によって大きな富を生み出したのである。こうした手法を、一般にファンダメンタルズ投資と呼ぶ。 (P118)
テクニカル投資の大原則は、「すべての情報はチャートに埋め込まれている」というものだ。その瞬間に成立した価格こそがすべてであり、それ以外に“本質的な価格”など有り得ない。それに対してファンダメンタルズ派は、企業には固有の本質的な価値(ファンダメンタルズ)があり、そこから合理的な方法で適正な株価(理論株価)を導き出すことができると考える。実在論と唯名論の対立は西欧哲学の根幹をなす大問題で、それは20世紀末のポストモダン論争まで引き継がれいまだに決着を見ないが、同様に株式投資の世界でも、ファンダメンタルズ派とテクニカル派のいつ果てるともしれない論争がつづいている。ファンダメンタルズ派の主張するように企業の本質的価値を定義することは可能で、それは「企業が将来にわたって生み出すすべての利益を現在価値に換算したもの」であった。ここには一点の曇りもない。株式会社は金儲けのための道具であり、株式はその所有権をバラ売りしたものなのだから、株式の価値は会社の利益からしか生じない。それ以外の要素が介在する余地がないという意味で、この定義は完璧なのである。 (P119)
リスクというのは、たとえていえば波のようなものだ。まったく同じ強さの波が逆方向からぶつかれば、双方のちからが打ち消しあって水面は静かになってしまう。同様に、完全に正反対の動きをする株を保有すれば、株価の変動に伴う損失はなくなる。この場合でも期待リターンは消えないから、リスクゼロで儲かるという夢のような世界が実現できる(数学的にいうと、「分散」と「傾き」は別のものだからだ)。これはちょっと非現実的だとしても、すこしでも動きのちがう株を持てば、リスクのもつ相殺効果によって、損する可能性だけを減らすことができる。このようにして、古くから知られていた「分散投資」の効用を数学的に証明したことが、マーコウィッツ青年の大発見であった。 (P148)
リスクをとりたくない投資家は、ローリスクの株式ポートフォリオではなく、全資産を国債(あるいは預貯金)で運用するはずだ。大きなリターン(=大きなリスク)を目指す投資家は、全資産を株式ポートフォリオで保有するにちがいない。ということは、無リスク資産(国債)と株式ポートフォリオを組み合わせることで、だれにとっても最適な資産の組み合わせを決定することができる。これが「効率的ポートフォリオ」だ。トービンによれば、合理的な投資家は次のような行動を取る。(1)ローリスク・ローリターンの投資家:全資産を国債(無リスク資産)で保有する。(2)ミドルリスク・ミドルリターンの投資家:国債と株式ポートフォリオの組み合わせを保有する。(3)ハイリスク・ハイリターンの投資家:全資産を株式ポートフォリオで保有する。(4)超ハイリスク・超ハイリターンの投資家:借り入れ(借金)をして株式ポートフォリオに投資する。これは資産運用におけるコペルニクス的転換であった。投資家のすべきことは、あれこれの銘柄を組み合わせることではなく、各自のリスク許容度に合わせて国債(預貯金)と株式ポートフォリオの割合を決めることなのだ。トービンの理論は、ながらくウォール街で黙殺されてきた。なぜならそれは、顧客ごとにオーダーメイドのポートフォリオを提案する伝統的な投資コンサルタントの仕事に廃業を迫るものであったからだ。 (P150)
毎日の株式市場を見ているとわかるが、個別銘柄の株価は市場全体の動きに大きく影響されている。日経平均が上がれば個々の株価も上昇することが多く、逆に平均株価が暴落すると、ここの銘柄もそれにつられて値下がりする。だがよく観察してみると、銘柄によってその動き方は異なる。たとえばIT銘柄などは、平均株価の動きに過敏に反応して大きく株価を動かす。一方電力株は、平均株価とは関係なく安定した値動きをすることが多い。株式インデックスに対するこの感応度を、シャープは「ベータ」と名づけた。シャープの理論をものすごく簡単に要約すると、次のようになる。ある株の値動きというのは、①その銘柄に固有の動き(アルファ)、②市場の動きに感応する動き(ベータ)、③予測不可能なイベント、の3つに分かれる。複数の銘柄を持つということは③の非市場リスク、つまり統計上の予測不可能性を消し去ることだ。そうなると、ポートフォリオの値動きは①銘柄ごとの動き(アルファ)と②市場感応度(ベータ)のふたつの要素で決まることになる。この際、アルファの値は一定だから(数学的にはx軸の切片にあたるからだが、細かな説明は省略)、ポートフォリオのリターンは最終的にはベータの大きさで決定される。これが、ファイナンスの世界を席卷した「ベータ革命」である。CAPM理論のすごいところは、ランダムに動く株式の期待収益率を、アルファとベータのわずかふたつの組み合わせに還元してしまったことだ。そればかりでなく、シャープはここからだれもが仰天する結論を導き出した。「CAPM理論が正しければ、世の中に効率的ポートフォリオはたったひとつしかない。それは株式市場の縮小コピーである」 ファイナンス理論が最終的に行き着いた場所はここであった。 (P152)
TOPIXのような平均株価に連動して値動きするファンドをインデックスファンドという。これは、株式市場に存在するすべての銘柄を時価総額に応じて保有するもので、まさに市場を縮小コピーしたものだ。こうした紆余曲折を経て、数多くのノーベル賞学者を輩出したファイナンス理論の頂点に君臨する「経済学的にもっとも正しい投資法」が完成した。それはサンダルをつっかけて近所の証券会社に出かけ、「すみません。インデックスファンド10万円分ください」と注文することなのである。 (P155)
「経済学的にもっとも正しい投資法」のいちばんすごいところは、小学生だってできることだ。いまは子どもでも証券会社に口座開設できるから、お年玉でインデックスファンドを買えばいいだけだ(1万円から投資できる)。そのうえ、理論そのものを理解する必要もない。「ノーベル賞を取るような超一流の経済学者がそろって同じことをいってるんでしょ。正しいに決まってるじゃん」 (P156)
株式会社とは、金融市場から事業資金を集め、社員を雇い、土地や工場、機械などの資本財を購入し、原材料を仕入れ、アイデアや研究開発力、ブランドなどを駆使して、投入した資金よりも多くの富を生み出す「装置」のことだ。それはどこか、魔法の貯金箱に似ている。豚の背中から100円入れれば、口から120円が吐き出される。でもときどき壊れて、入れたお金が戻ってこない・・・・・。もしこの装置が正しく作動しているのなら、富は福利のちからで大きくなっていく。当たりくじの本数が増えていくこの状態を、「期待リターンがプラス」という(長期的には株価は右肩上がりになる)。しかし逆に、貯金箱のどこかに問題があって、投入した資金よりもすこししか戻ってこないと(期待リターンがマイナスだと)、お金は急激に失われていく。このように、長期投資が大きな富を生むのは期待リターンがプラスのときだけなのだ。「株は長期で持てば必ず上がる」というひとがいるが、経営者が無能で、市場から調達した資金を減らすだけなら、富は失われていく。同様に、石炭産業のような構造的に衰退する業種に投資したらならば、時間とともに損失は拡大していくだろう。いずれも期待リターンがマイナスだからだ。この場合、長期投資のリスクの大きさが負の効果となって現れ、資産を加速度的に減らしていく。 (P165)
資本主義は自己増殖するシステムである。日々の経済活動のなかで差異を見つけ、それを富に変え、そこからまた差異が生まれ・・・・・。資源問題や環境問題など外的な制約がなければ、理論的には、この運動は無限につづく。だったら、「市場ポートフォリオ」への投資とは、グローバルな市場そのものに投資するということではないだろうか。 (P166)
株式市場で富を創造するには、次の3つの代表的な方法がある。1.トレーディング(デイトレードを含む) 2.個別株長期投資(バフェット流投資法) 3.インデックスファンド(経済学的にもっとも正しい投資法) なぜこれらの方法が有効かというと、株式投資が次のようなゲームだからだ。1.株式投資は確率のゲームである(「ぜったい儲かる方法」はぜったいにない)。2.株式市場はおおむね効率的であるが、わずかな歪みが生じている(その歪みは、有能な投資家によってすぐに発見され、消滅してしまう)。3.資本主義は自己増殖のシステムなので、長期的には市場は拡大し、株価は上昇する(それがいつになるかはわからないが)。ここから、株式投資に「勝つ」合理的な方法はふたつしかないことがわかる。市場の歪みを利用するか、長期投資で樹から果実が落ちるのを待つか。どちらが優れているということはなく、いずれの投資法も資本主義の本質から生まれたものだ。短期のトレーディングは、市場の歪みから富を生み出す手法だ。長期投資の効用ははたらかないから、必然的に、大儲けするプレイヤーがいる一方で7割以上が資金のすべてを失って退場していく弱肉強食のゼロサムゲームになる。インデックスファンドは、長期的な市場の拡大から富を創造する手法だ。市場の歪みは利用できないから、平均以上の運用成績をあげることは原理的に不可能である(そのかわり市場平均を下回ることもない)。ウォーレン・バフェット流の割安株への長期投資は、市場の歪みを利用し、なおかつ長期にわたる市場の拡大をも援用して、より大きな富を生み出そうとする。バフェットのような資本主義の原理に忠実な投資家が、市場平均を上回る莫大な資産を築くのは、ある意味で当然なのだ。 (P167)
自分自身に投資家としての適性があるかどうかを、簡単な方法で知ることができる。宝くじを買って億万長者になろうと夢見ていたり、競馬や競輪で生活しようと考えているのであれば投資はやめたほうがいい(ゲームとして楽しむのならこのかぎりではない)。投資用にワンルームマンションを買っている人もかなりあぶない(高額所得者が税金対策と割り切るなら別)。こういうひとはギャンブルでいちばん大事な期待値の計算ができていないからだ。外貨預金をするひとは、投資についてある程度知識があるかもしれないが、やはりコスト意識が欠落している。外貨投資のなかで、外貨預金はもっともコストの高い手段である。もしもあなたが経済合理的な投資家であれば、証券会社の外貨MMFか外為証拠金取引(為替FX)を使うだろう。貴金属店で金地金を購入し、貸金庫を借りて保管するひとも同様で、商品先物会社で金の先物を売買したほうが効果は同じでずっとコストが安い。ギャンブル研究の第一人者である谷岡一郎によれば、日本の宝くじの期待値が46.4%、競馬などの公営競技が75%なのに対し、ラスベガスのルーレットは約95%、、パチンコは約97%、バカラやクラップスになると期待値は99%から最大で99.9%まで上がる(谷岡一郎『ツキの法則』<PHP研究所>)。ハイローラーと呼ばれる、いちどの勝負に大金を投じる筋金入りのギャンブラー(ギャンブル中毒者)がバカラを好む理由は、そのゲーム性ではなく期待値の高さにある。勝率を正しく計算できなければ、ギャンブラーは生き残っていけない。同様に、投資コストに鈍感な投資家はいずれ市場から退出していくことになる。コストは期待値を下げるだけで、なにも生み出さないからだ。外貨MMFは外貨預金とほぼ同じ商品で、為替手数料が約半分(金利も若干高い)。外国籍の契約型投資信託なので売却益が非課税で、2008年3月末までは分配金に対する課税が10%に軽減されている(それ以降は預貯金のりしと同じ20%)。為替証拠金取引は両替手数料が5~10銭と安いが、売買単位は1万ドルがふつう。売却益・金利(スワップ金利)ともに雑所得として課税されるので、所得税率の高いひとは不利になる。どちらが効率的かはケースバイケースだが、いずれにせよ外貨預金よりはるかにマシ。先物取引に偏見を持っているひとが多いが(これまで業界がやってきたことを考えればそれも当然だ)、投資のためのツールと考えれば、株価先物、為替先物、商品先物などは、機関投資家並みのコストで市場にアクセスできるすぐれた特性を持っている。それを上手に利用できるかどうかは本人次第だ(先物の仕組みが理解できないうちは手をださないほうがいい)。 (P172)
保険会社が販売する不幸の宝くじは、わずかな賭け金で大きな賞金が支払われるかわりに、ほとんどのひとが外れを引く特殊な商品である。その特性を有効に活用できるひとはそれほど多くない。少なくとも独身者や子どものいない夫婦、高齢者や十分な資産のあるひとにとっては死亡時の保険金になんの意味もなく、掛け金を無駄にするだけだ。その事実が広く知られるようになると、保険商品は急速に複雑になってきた。その代表が、生命保険に投資信託を組み合わせた変額保険である。そもそも保険(不幸の宝くじを買うこと)と投資(金融市場のリスクに賭けること)はまったく別のもので、このふたつを組み合わせることに経済合理的な理由はない。たとえていうならば、ダイコンとエンピツをセットで販売するようなものだ。ところが保険会社は、投資商品よりも保険のほうが税制上有利な扱いを受けていることを盾に、この奇妙なセット商品を買わせようとする。もちろん、それによって顧客が制度上のメリットを享受できるなら問題はない。だが実際には、利用価値があるのは相続税対策に使える一部の富裕層だけで、それ以外の顧客は意味のない保険に半強制的に加入させられ、そのうえ割高なコストを請求される。保険は、人生のリスクを管理するのにきわめて有用な金融商品である。だが私は、「愛情」と称して偽善を売るようなひとたちと好んでつきあいたいとは思わない。申し訳ないけど。 (P189)
古くから預金(債権)・株式・不動産への「資産三分法」が繰り返し説かれてきたが、ファイナンス理論でも、個別銘柄の選択のような「戦術」的問題より、資産全体をどのように分配するかの「戦略」的思考のほうが運用成績に大きな影響を与えることが明らかにされている。資産運用の成否の8割は「アセットアロケーション(資産配分)」で決まるのだ。 (P194)
自社株への投資は人的資本と同じリスクを株式市場でもとることだから、あまりお勧めできない。旧山一證券の社員の多くは持株会に加入しており、職と資産を一挙に失った。リスクを分散するためには、自分の仕事とは異なる業種に投資するべきだ。 (P198)
確定拠出年金に使われる海外株式インデックスファンドは、日本市場以外の世界の株式に投資するものだ。世界市場における日本株の時価総額は約15%だから、国内株式15%、海外株式85%の割合で資産配分することで、だれでも簡単に世界市場に投資できる。このように資産運用の手段にさまざまな制約がある確定拠出年金では、ほとんど一本道で「すべてのひとに最適な投資法」にたどり着く。これがぜったい正しいとはいわないが、少なくとも第一選択肢(それも圧倒的に有力な選択肢)になるはずだ。 (P205)
米国株式市場の時価総額は世界市場の半分を占めるから、アメリカの個人投資家は資産の5割を海外市場に投資することで世界市場ポートフォリオを保有できる。同様に、日本の個人投資家が世界市場に最適投資をするためには、金融資産の85%を外貨建てで運用しなければならない。 (P210)
ここで、株式投資の代表的な手法のメリットとデメリットをまとめておこう。1.トレーディング(デイトレードを含む)メリット:ゲーム性が高く、いちどハマるとやみつきになる。デメリット:ゼロサムゲームなので、初心者の大半は敗退していく。2.個別株長期投資(バフェット流投資法)メリット:資本主義の原理に忠実なので、もっとも大きな利益が期待できる。デメリット:企業調査に時間と努力が必要。3.インデックス投資(経済学的にもっとも正しい投資法)メリット:あまりにも簡単で考える必要すらない。デメリット:平均的にしか儲からない。 (P211)
自営業者でもサラリーマンでも、あなたが投資以外に別の仕事をしていて、余裕資金を株式市場で運用しようと考えているならば世界市場ポートフォリオを勧めたい。目の覚めるような運用成績は期待できないが、面倒なことはなにひとつ考えなくていい。それによって生まれた時間は、仕事であれ趣味であれ、もっと有効なことに使えばいい。「トーシロ投資法」では、この3つの手法のメリットとデメリットを組み合わせて自分なりに楽しむことを提案したい。少額の資金をアグレッシブに投資するなら、先物や信用取引でレバレッジをかけてみたい。日本のバフェットを目指して、選び抜いた少数の銘柄を長期で保有するのもいいだろう。このように、本人のやる気や資金額によって投資手法はさまざまなのだが、もしもあなたが初心者で、これから株式市場を体験するのなら、リスクのとれる金融資産の8割を世界市場ポートフォリオに投資し、残りの2割をトレーディングや個別株投資に割り当てるくらいが基本になるだろう。資産運用の基本設計は債権がベースになる。2006年2月現在で日本国債(10年債)の年利回りは1.5%だから、100万円を投資すれば10年後に約116万円になる。米国債(同)の年利回りは4.7%で、1万ドルが10年で約1万6000ドルに増える。これで資産運用のゴールに到達できるなら、国債はもっともリスクの低い投資商品だから、全資産を日本国債か米国債(あるいはその組み合わせ)で運用すればいい。それ以上の利回りを目指すのであれば。株式市場でリスクをとる以外にない。株式と債権の保有比率はアセットアロケーションの第一歩だが、そこに正解はない。人生と同じく、投資のゴールも自分で決めるしかない。 (P213)
世界市場ポートフォリオに投資するにあたっては、MSCIワールド・インデックスに直接連動するファンドがないため、先に述べたように、日本市場を除いたMSCIコクサイ・インデックスとTOPIXを85対15の割合で組み合わせることになる。ただし国内のインデックスファンドは信託報酬が年1%程度と割高で、それが利益の圧迫要因になる。投資コストをより低くするならば、アメリカ市場のETF(上場型投信)を活用したい。この場合は、S&P500インデックスに連動するスパーダーズ(SPY)と、米国以外の主要マーケットのインデックスであるEAFE(EFA)を50対50で組み合わせることで、世界の主要企業に分散投資できる。これなら経費率は年0.1~0.3%で、一般的なインデックスファンドよりずっと有利だ。 (P221)

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