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椎名 誠 / 集英社
(2009-05-01) /
1,260円
/ ISBN:9784087712827
本・雑誌
/ 文学・評論

2009年12月15日 8 users
図書館
2009/07/04
 p.111-112 ビビンバくん
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自宅から賑やかな商店街を通って地下鉄に乗り銀座まで一直線。ちゃんと時間的な余裕をとっていくのだが必ずせかせかと行く。妻は小柄で和服姿なのに足が速く、わたしもせっかちで速足なので、まるで何かに追われている夫婦みたいではないか、とあるときわたしはそのコトに気がついて妻に言った。
わたし一人だけの性分でいえば、小説誌の原稿締め切りが近くなると、嫌なものに追われているような気分になり、ゆったりしたところが無くなってくる。わたし本人は気がつかないけれど、ずっと傍で見ている妻からするとその感情の変化がよくわかるという。だから精神的に追われているのでなければ、二人ともそれが癖なんだから速足だろうが駆け足だろうがなにも問題はないのではないか、と妻は言うのである。どうも釈然としない理屈だがまあいいか―と思うようにしている。
問題なのは混雑した通りをいく時だった。それまで歩いてきた二人のスピードのペースが周囲の人々によって当然スローダウンを余儀なくされるから、やたらにもどかしくなる。みんなもっと速く歩け、という苛立ちになってくる。どうも困ったものだ。でも、お互いにもう歳なのだから、そろそろ我々が世間に合わせて、この意味もなく速いスピード感覚を変えていく頃ではないのかね、などとわたしはだいぶ前に言ったことがある。けれどその日もスピード問題は解決せずに、わたしたちはまたせかせかと銀座の裏道を歩いていた。 [折りたたむ]
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